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カラダのあの部分の力で寿命が分かる?

握力の強さが寿命と関係


握力の強さ健康で長生きできるかどうかがわかる、と言えば、あなたは信じますか?

 

福岡県糟屋郡久山(ひさやま)町。この人口8,000人程度の小さな町は、医学の世界では超有名です。

 

この町には九州大学が研究拠点を置いて、1960年代より住民の協力により世界でも類を見ない規模で、健康と生活習慣(生活習慣病)の疫学(えきがく)研究が行われています。

 

疫学研究とは、地域社会や特定の人間集団を対象として、健康に関する事象(病気の発生状況など)の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする医学研究のことです。

 

なぜこの地方の町でこのような医学研究が行われているかというと、久山町住民は、全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布を持っており、偏りのほとんどない平均的な日本人集団なのだそうです。

 

そして、この久山町研究では、亡くなられた方の8割近くを解剖し、正確な死因や隠れた疾病を調査しています。世界的にもここまで行っているのは久山町研究だけということで、その信頼性の高さから、得られた研究結果は常に注目されています。

 

 

この久山町研究から、なんと、握力の強さが寿命と大きく相関しているということが報告されています。

 

握力が平均より低いと、男性・女性ともに脳卒中・心筋梗塞をはじめ、様々な病気による死亡リスクが高くなる、ということが分かりました。

 

握力を測定し、握力が強い、平均、弱いの3群に分けたとき、強い、または平均の人に比べて、弱い人は総死亡リスクが優位に高かったのです※。

 

 

死亡リスクが高い低握力の基準値

  男性 女性
40〜64歳の人 握力 39.5kg 以下  握力 23.5kg 以下 
65歳以上の人 握力 29.5kg 以下 握力 16.0kg 以下

 ※握力が強くなればなるほど長生きできる、という話ではありません。


握力は全身の筋肉量の代替指標


 

なぜ、一見なんの関係のなさそうな握力が、脳卒中や心筋梗塞などの病気のリスクと相関しているのでしょうか。

 

実はこれ、握力ではなく、全身の筋肉量と死亡リスクが関係があるのです。

 

 

筋肉といえば、わたしたちは腕や足の筋肉、胸筋、腹筋など、体の外側の筋肉をイメージしがちですが、人間の体は内臓も含め全身あらゆるところが筋肉でできています。

 

手を握る力に関係する筋肉はとても小さく、単独で鍛えようとしても難しいのですが、逆に下半身などの大きな筋肉を鍛えることで、体内で筋肉を合成する物質が作られ、それが血液にのって全身に運ばれて、体全体の筋肉をどんどん作ってくれることがわかってきています。

 

その過程で、結果として握力も強くなっていきます。つまり、握力の強さは、内臓なども含めた全身の筋肉量を反映しているのです。

 

もうお気づきかと思いますが、この研究結果から見えることは、握力の強さはあくまで代替指標であって、全身の筋肉量が減ると病気による死亡リスクが高まってしまう、という話なのです。

 

 

この研究では、筋力低下が運動不足、低体重、糖尿病・高血圧などの慢性疾患と関連しているので、死亡のリスクを上昇させる、また、握力が低くなるとIGF-1という体中の細胞に対して成長促進効果を発揮するホルモンが減少し、死亡リスクを高める可能性があると結論づけています。

 

 



健康に効く運動プログラムは人それぞれ違う

 

運動が健康によいのは「太っている人が有酸素運動をして痩せることで、健康に良い効果が現れる」と言うイメージをお持ちの方が多いかもしれません。

 

確かにその事は間違ってはいないのですが、紹介した久山町研究からもわかるように、筋肉の少ないことも健康寿命に悪影響及ぼします。つまり、人によっては、有酸素運動よりも筋トレをすること方が健康効果が高い場合もあるのです。

 

太っている人は体が大きく見えますが、その大部分は脂肪であり、筋肉の量は少ないという方も少なくありませんので、その場合は体脂肪を落とすことと筋肉量を増やすことを同時に考えなくてはなりません。

 

それぞれの人に応じた正しい体の状態の把握と、運動プログラムの設計が大切です。

  

 

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【参考文献】

久山町研究 九州大学大学院 医学研究院 http://www.hisayama.med.kyushu-u.ac.jp/

 

日本運動疫学会 【連載:日本の運動疫学コホート(7)】久山町研究http://jaee.umin.jp/REE/J/16_2_111.pdf

 

 



笠井 篤

うぇる・なす共同代表

「がん治療」新時代WEB 運営者・編集長

 

医療・ヘルスケア分野専門の情報メディアを運営。編集者としても多くの医師や専門家を取材し、治療や予防医学に関する記事を執筆、編集している。特にがんの予防・早期発見を広く啓発し、がんになる人、亡くなる人を一人でも減らすことをミッションとしている。